焔よ
足音のないきらびやかな踊りよ
心ままなる命の噴出よ
お前は千百の舌をもって私に語る、
暁け方のまっくらな世帯場で――。 (註)世帯場=厨房
年毎に落葉してしまう樹のように
一日のうちにすっかり心も身体もちびてしまう私は
その時あたらしい千百の芽の燃えはじめるのを感じる。
その時いつも黄金色の詩がはばたいて私の中へ降りてくるのを感じる
焔よ
火の鬣よ
お前のきらめき、お前の歌
お前は滝のようだ
お前は珠玉のようだ。
お前は束の間の私だ。
でもその時はすぐ過ぎる
ほんの十分間。
なぜなら私は去らねばならない
まだ星のかがやいている戸の外へ水を汲みに。
そしてもう野菜をきざまねばならない。
一日を落葉のほうへいそがねばならない。
焔よ
その眼にみえぬ鉄床の上に私を打ちかがやかすものよ
わが時の間の夢殿よ。
永瀬清子
「焔について」所収
1950