もういちど はじめから
やり直そう
そう思った
さくらの花を仰ぎながら
ボロの復員服を着て
ボロ靴をはき
南方帰りのぼくに
日本の春は寒かった
さくらの花だけが鮮やかだった
家もなく
金もないが
いのちがある
もういちど そう思った
あのときぼくは三十だった
あの年のさくらのように
さくらはことしも美しい
ゆめのように
希望のように
梢に高く咲いている
大木実
「蝉」所収
1981
もういちど はじめから
やり直そう
そう思った
さくらの花を仰ぎながら
ボロの復員服を着て
ボロ靴をはき
南方帰りのぼくに
日本の春は寒かった
さくらの花だけが鮮やかだった
家もなく
金もないが
いのちがある
もういちど そう思った
あのときぼくは三十だった
あの年のさくらのように
さくらはことしも美しい
ゆめのように
希望のように
梢に高く咲いている
大木実
「蝉」所収
1981