死の髯

料理人が青空を握る。四本の指跡がついて、
──次第に鶏が血をながす。ここでも太陽はつぶれてゐる。
たづねてくる青服の空の看守。
日光が駈け脚でゆくのを聞く。
彼らは生命よりながい夢を牢獄の中で守つてゐる。
刺繍の裏のやうな外の世界に触れるために一匹の蛾となつて窓に突きあたる
死の長い巻鬚が一日だけしめつけるのをやめるならば私らは奇跡の上で跳びあがる。

死は私の殻を脱ぐ。

左川ちか
「左川ちか全詩集」所収
1936

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