私は生きた心地もなく
死と隣りあわせて住んでいた
だれかに触れられると
そのまま首がぽろりと落ちそうなので
石になったのかもしれないと思った
不安は日々に深くなって
もう何も見えないほど私を包んだ
果てしない砂漠に取り残されて
ひとり しょんぼりと
夜明けの夢のように 声もなくさめざめと泣いた
口をあけたような青い空も泣いた
樹も泣いた
鳥の軀も
馬の白骨も
みんな魔法にかけられて
身うごきもせずに ひっそりと
息をひそめて死の姿を見守っていた
それは堪え難いほど静かな世界だった
私は死と隣りあわせ
生きた心地もなく現実にたたずんでいるだけだった
ただ倒れまいとして
中村千尾
「日付のない日記」所収
1965