深い傷の淵から
ゆっくりと癒されていくとき
傷口のさらにおくから
すこしずつ湧きあがってくる
この世でもっともすみ切った水にあらわれて
傷口はやがて新しい目になるだろう
もはやなんのためらいもなく
まっすぐ天にむかってひらかれたレンズの
焦点は深く視界は広く
ついに新しいおのれの星を発見するそのとき
あれほどいたかった傷口は
しずかに満々と水をたたえて
天にもっとも近い湖
新しい星一つうかべて
なおはげしくのぞみつづけるだろう
さらにあたらしい目差しだけを
征矢泰子
「花の行方」所収
1993