なにしろぼくの結婚なので
さうか結婚したのかさうか
結婚したのかさうか
さうかさうかとうなづきながら
向日葵みたいに咲いた眼がある
なにしろぼくの結婚なので
持参金はたんまり来たのかと
そこにひらいた厚い唇もある
なにしろぼくの結婚なので
いよいよ食へなくなったらそのときは別れるつもりで結婚したのかと
もはやのぞき見しに來た顔がある
なにしろぼくの結婚なので
女が傍にくつついてゐるうちは食へるわけだと云つたとか
そつぽを向いてにほつた人もある
なにしろぼくの結婚なので
食ふや食はずに咲いたのか
あちらこちらに咲きみだれた
がやがやがやがや
がやがやの
この世の杞憂の花々である
山之口貘
「山之口獏詩文集」所収
1963