あなたはいったい誰
ずっと以前から
私の存在の内側にはりついて
私に似すぎてみせたり
似ても似つかぬふりをしたりする愚かな属性
けものだろうか あるときは
敵を求めて徘徊する
その行動半径の大きくて確実なこと
鳥だろうか あるときは
心臓の中からやさしい声が
まぎれもなくささやきかけることがある
猛禽だろうか あるときは
すべてのきずなから解かれて
ただの私に帰ろうとする私を
思いきりつきとうしにくる深夜のくちばし
あなたはいったい誰
いつからそういうことになったのか
私の半身になりすまして
私が表であなたが裏だったり
またはそのまったく逆だったりする奇妙な関係
あなたが着物で私が中身だとしたら
着物のすそに足をとられて私は動けない
私が着物であなたが中身だとしたら
あなたは裸身のまま何ひとつかくせない
身のおきどころもなく走り出しても
背中あわせの縄ばしごには
あなたものぼれない 私も
のぼれない 私もあなたも
どこへ脱出すればいいのか迷ったまま
もう何年でも宙づりになって揺れているだけ
牟礼慶子
「魂の領分」所収
1965
「あなたは誰」は許諾をいただいた上で掲載をしている作品です。無断転載はご遠慮ください。
この詩を読んで興味を持たれた方は是非下記のサイトも参照してください。
著作権継承者の方によるサイトです。詩だけでなく、写真等も掲載されています。
牟礼慶子公式ホームページ「来歴」
http://murekeiko.com/