囚人

真夜中 眼ざめると誰もゐない──
犬は驚いて吠えはじめる 不意に
すべての睡眠の高さに躍びあがらうと
すべての耳はベツドの中にある
ベツドは雲の上の中にある

孤独におびえて狂奔する歯
とびあがつてはすべり落ちる絶望の声
そのたびに私はベツドから少しづつずり落ちる

私の眼は壁にうがたれた双ツの穴
夢は机の上で燐光のやうに凍つてゐる
天には赤く燃える星
地には悲しげに吠える犬
(どこからか かすかに還つてくる木霊)
私はその秘密を知つてゐる
私の心臓の牢屋にも閉ぢ込められた一匹の犬が吠えてゐる
不眠の蒼ざめたvieの犬が。

三好豊一朗
「囚人」所収
1949

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