ぼくが消えてしまうところが
この地上のどこかにある
死は時の小さな爆発にあって
ふいに小鳥のようにそこに落ちてくるだろう
その場所はどんな地図にも書いてない
しかし誰かがすでにそこを通ったようにおもわれるのは
その上に灰いろの空が重く垂れさがっていて
ひとの顔のような大きな葉のある木が立っているからだ
あなたは歩みを速めて木の下を通りかかる
そしてなにかふしぎな恐れと温かな悲しみを感じる
ぼくの死があなたの過去をゆるやかに横切っているのだろう
春雨がしめやかに降りだした
いますべての木の葉が泣きぬれた顔のように
いつまでもじっとあなたを見おろしている
嵯峨信之
「魂の中の死」所収
1966
昔、雑誌「詩学」に投稿した詩を嵯峨信之さんにとっていただいたことがあって、それが今でも励みになっています。
この詩もすごいです。