うまいで やすいで
やすいで うまいで
うまいで あついで
あついで うまいで
エエ 100円!
ないか?
80円
男が自動販売機で買ったばかりのキツネうどんを 両
手に一つずつ持って叩き売りをやっていた
できたて あつあつ
うまいで やすいで
ないか 80円
エエ! 60円
60円やで これでもないか
買わんか おっさん
買うたばっかしのうどん
なんですぐ売る
ふしぎやろけど わけはいわん
わけはいわんが 一つだけ売る
やすいで うまいで 50円
ないか
30円まで値が下がっても 誰も買おうとしなかった
やすいで のびるで
のびるで うまいで
はやいもん勝ち
10円でどや?
買うた! しゃがれた声がかかって 黄色い顔したじい
さんが手に握りしめた10円玉を男に渡した 男とじいさ
ん 二人ならんで道端に腰をおろし キツネうどんを食
いはじめた。
家に帰り 痛む歯をおさえて考えていた なぜあの男は
キツネうどんを二つも買い 10円に値下げしてまでその
一つを売りたがっていたのだろう もしかしたら あの
男は売ることよりも 本当は誰でもいい誰かと 二人で
キツネうどんを食いたかったのじゃないだろうか
そうだとしたら──
×月×日 快晴
今日もまた街角に立つ。
ジジイ一人。10円で。七五歳くらい。
病気のせいか、手が震えていた。
二人でのびかかったうどんを食う。(何の話もせず)
親知らずの痛み治らず 親殺しのような
黒瀬勝巳
「幻燈機のなかで」所収
1981
何か今の時代にもぴったり来るような気がします。これも詩になってるのが、素晴らしい。