鍋一つ

わが家のフライパン
すんなりと伸びた柄の先に
指の強さを確かめて
輪になる鍋の底
この日ごろ油乏しく
色艶はなけれども
熱き湯をジュッと鳴らし
心ゆくまで拭きこみて
太古のの赭鏡の如く
重き光に充ち足り
きょうひと日この鍋に頼りて
雑雑の糧を創意に温む
明日のマナを信じ
つつましくもあるか
鉄うすき鍋一つ

港野喜代子
「港野喜代子選集」所収
1976

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