ゆう子

ゆう子
そなたにイエス・キリストを生んでもらいたかったのに
そなたは実在の女ではない
そなたはぼくの悲しみのなかに存在する女
そなたの名は夕焼けのゆう
そなたの名は憂愁のゆう

ゆう子
そなたにマイトレーヤを生んでもらいたかったのに
そなたは永劫に架空の女
そなたはぼくの孤独のなかに存在する女
そなたの名は夕闇のゆう
そなたの名は幽遠のゆう

ゆう子
そなたの名のゆえに世界は崩壊すればよい
人類は舞い狂う砂漠の砂となればよい

ゆう子
そなたの名のゆえに世界は荒野となればよい
氷河や氷山は溶解し
都市という都市はあふれる水の下に沈むがよい

厚木はしらじらしく裂け
河という河ははんらんし
大地にきれつが生じ
終いに一匹のいなごが
未知の宇宙へ向って飛び立つがよい

ゆう子
ぼくに真実をつげさせてくれるゆう子
そのために
そなたの名があればよい

村上昭夫
「動物哀歌」所収
1967

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