男は疲れていた
人類の鼻という鼻に。
はなばなしい希望に
うちひしがれて
肉ダンゴを
食おうか どうしようか
迷いがでている
──これからの一生は
  鼻とは関わりなく生きてみたい
妻に向かって そう言おうとして
妻のひかる鼻を見
やめる
そんなふうな夕食どきである
ところで
わたしも疲れているのだが
わたしの鼻に。

黒瀬勝巳
「幻燈機の中で」所収
1981

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