田舎の理髪店で

幼馴染の体は石鹸の匂ひがぷんぷんする

石鹸の匂ひのやうに このわかい男にも

もう生活が染みこんでゐるのであらう

 

鏡に映つてゆれる

木橋と濁つた水と

彼の顔と──(頤のところの小さい疵はあの時の喧嘩のあとだ)

 

金がなくなつて またかへつて来た男の悲しみを

彼は器用に剃りあげる

昨日 川から腐つてあがつた水死人の話をしながら

 

ああ僕の瞼のうらで

昔のままの気橋がゆれる

濁つた水が流れる──二十年の歳月が・・・寂しい怒りのやうに

 

木下夕爾

1965

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