年とつた男が、草の上で、
瓢箪の笛を吹きはじめた。
蓋をとつた平つたい籠のなかから
コブラがたゝきつぶされたやうな首を出して
なにか、ものでも探すやうに
からだを上へおし伸してきた。
だんだん籠から外へ出て草の上へ這ひ出して、
笛の音にあはせてからだを揺つてゐる。
あの笛の音に古い沼沢の唄がひそんでゐるのか。
瓢箪の音色は悲しみにみち、
哀史を読むやうに縷々と
口ごもりながら訴える。
コブラの悲しい性が誘はれて、
故郷の調をきく老媼か、
酒に逃れる失意の人のやうに。
首をふる。
森三千代
「東方の詩」所収
1934