巨象ザンバ

ザンバという巨象がいた
ぼくはその象の話なら度々聞いている
それは昔からザンバと呼ばれる象で
澄んだ夜空のように青黒い肌と
半月のように冷たい牙を持っていて
ひとりの仲間もなく
さまよい歩いている象なのだと

ザンバという名の巨象はたしかにいた
ぼくはその象の遠吠えなら度々聞いている
それが嘘ではない証拠に
そいつはタンガニイカの高原や沼地の中を
あるいはガンジスの上流の森林や
ゴビの砂漠の砂塵のなかを
実に恐ろしい巨体で
どしりどしりと歩いているのだ

ザンバの年令は幾百才と言ったか
幾千才と言ったか忘れてしまう
なにしろぼくの生れる以前からの話だから
幾才と言ったらいいか分らない
だが巨象ザンバの名を聞くたびに
ぼくは宇宙の半分を聞いてしまった気がして
度々泣いてしまうのだ
ザンバの肌はあまりにも青黒い空のようで
ザンバの牙はあまりにも冷めたくて
ザンバの耳や鼻なら
あまりにも寂寥の象らしいから

巨象ザンバはたしかにいるのだ
ぼくはその象の足跡なら度々見ている
その象の足跡は
覗けない大地の井戸のほど深々しいから
ぼくはひと目見ただけで分るのだ
そしてぼくはザンバの話なら
小さい子になら何時でもできるのだ

巨象ザンバはたしかにいると
ぼくはその象の永劫の遠吠えを
度々聞いているのだと

村上昭夫
動物哀歌」所収
1967

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