ある孤独 (家)

家がわたしの家でなくなった。
わたしが家を追い出された。
家のない人間が犬よりも猫よりも困りものだということがわかった。
ねどこ、きもの、食器、はきもの、てぬぐい、その他いろいろ、必要なものだということがわかった。
なんにものこっていなかった。
肉体だけがわたしのものだった。
そいつがひもじがってわたしをこまらせるのだ。
しばらくわたしはかんがえてみた。
もうなんにも持たぬことだ。なんにもしないことだ。
死ぬも生きるも恥と外聞の外でやる。
乞食にだってならぬことだ。
どこにでもはいりこんで
手あたりしだいに食って
そこにへたりこんでうごかぬことだ。人間の仲間はずれになってやることだ。
追い出された自分の家の戸をこじあけて
今夜はぐっすりと
そこで睡眠をとってやろう。

秋山清
「ある孤独」所収
1966

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