黒い蝿

貨車に積まれた牛たちは
首をすりつけ合い
ぼんやりと
眼をひらく

黒い蝿は
牛たちにたかりながら
ここまでいっしょにきた

貨車の中の牛たちは
自分を待ちうけている運命に向かって
ものうげに啼く

血ぶくれのした
黒い蝿は
遠くから
貨車にゆられながら
ゆっくりした絶え間ない牛のしっぽに追われながらここまできた

この執拗で残忍な同行者は
結局どこへ行くだろう
最後に
牛たちが
ばらばらの肉塊になり
鈎にぶらさがり
やがて
鈎だけが
宙にゆれるとき

木下夕爾
「定本 木下夕爾詩集」所収
1966

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