日常

私の所有は
ガラクタばっかりなんだが。
居場所は世間の端っこなんだが。

他人さまの眼からすれば
悪知恵だって
それなりにある。ということであるだろう。

巣箱ほどではあるけれども
あいつの住家
雨漏りにはまだ年月が足らぬ。ということであるだろう。

知人、友人が先立つのに
まんまと生き延びて
老年なんぞ抱えこんでる。ということであるだろう。

孫の二、三人はあるようで
昔話なんぞ反芻して
いい気になって呆けてる。というふうであるだろう。

女友だちも何人かいて
喫茶店あたりで
デイトしてる。といった噂だってあるだろう。

戦争はごめんだ
絶対権力はごめんだなどと
ぶつくさ言ってる弱虫めが。ということであるだろう。

白髪。
残り歯。
白内障。
メニエル氏病や
老齢病。
長寿手帳の無賃乗車証も授かって。
私の非所有は
権威的肩書の類いで。
居場所は現代雑居地。その平均値の揺れ揺れで。

伊藤信吉
「風や天」所収
1979

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