躓いたら轉んでゐたいのである
する話も咽喉の都合で話してゐたいのである
また、
久し振りの友人でも短か振りの友人でも誰とでも
逢へば直ぐに、
さよならを先に言ふて置きたいのである
あるひは、
食べたその後は、口も拭かないでぼんやりとしてゐたいのである
すべて、
おもうだけですませて、頭からふとんを被つて沈澱してゐたいのである
言いかへると、
空でも被つて、側には海でもひろげて置いて、人生か何かを尻に敷いて、膝頭を抱いてその上に顎をのせて背中をまるめてゐたいのである。
山之口貘
「定本山之口貘詩集」所収
1936