長い廊下を一人で
どしんどしんどしんと
大股で力を入れて歩いて見たい。
そうして時々、大声で怒鳴って見たい。
お──い
反響のない所で
力を入れて歩くのは、
損な気がする。
反響のない所で、どなって見るのも
消えてゆくのが淋しい。
どしんどしんどしん
あたりにそれが響く。
お──い
あたりにそれが響く。
その内を一人で、子供らしく歩いて見たい。
馬鹿な願いだ
むだな望みだ
しかし都会にすむ自分は、十年余り、
どしんどしんとやったこともない。
お──いと怒鳴ったこともない。
子供のように束縛されずに、
世間を顧みず、他人を顧みず、
ふるいまいたいのだ、怒鳴りたいのだ。
反響のある所で。
どしんどしんどしん、お──い。
武者小路実篤
「武者小路実篤詩集」所収
1953