貝殻調

一つ二つと唄つてゐる

幼童のかぞへ歌、そのなかに

静かに雨は降り、

日は輝く。

朝まだき

仄暗い森のなかの

声のつぶれた一羽の梟、

煙つてゐる雨と霧。

朝は青磁色に

森をぬけて出てゆく、天の貝殻、

露な心臓の慄ふ睡蓮。

ああ、ぬれしとる七月、嶺の高根薄雪草。

幼童の歌のなかに

空は色変へ、

萎んではまた開く花のかげ、

頬白の声が晴々しい。

啄木鳥は空しく、

森の扉を叩き、

永生の寂しさに

人は白昼の山を昇る。

細い谷合の

剣のやうに鋭く澄んだ

かなたの空を飛び過ぎる鷹、

静かに燃え切る無色の焔。

粉屋の軒に雨は降り、

平和な咽喉をならしてゐる鳩の巣、

小鳥たちは音もなく

空に散らばる、黄昏れ時。

幼童のかぞへ歌のなかに

世界は崩れ、移る、美しい貝殻、

この永遠の子守唄、

木々の空洞の玉虫、こがね、甲虫。

森の空気は練絹の如く皺もなく

空を貫く真白の噴水、

池の表に浮く緋鯉、

ここでは時間がとまつて居る。

10

キリキリと駒鳥は日時計を巻き

昼と夜の時刻を分けて、

窓硝子を鳴らす蝿の翅、

鶏達は疲れを知らない。

11

分をわけ、秒をかぞへ、

光を変へる蜻蛉の目玉、

虚空をうつすむなしい貝殻、

月が出た、教会堂の屋根の上。

12

十二月の月をかぞへて

幼童は歌ひつつ編む花輪、花束、

静かに額づいてゐる蜜蜂の 呟は

泡立つ蜜に酔へ、酔へ、酔へ・・・・・・・・

 

竹内勝太郎

1935

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