1
一つ二つと唄つてゐる
幼童のかぞへ歌、そのなかに
静かに雨は降り、
日は輝く。
2
朝まだき
仄暗い森のなかの
声のつぶれた一羽の梟、
煙つてゐる雨と霧。
3
朝は青磁色に
森をぬけて出てゆく、天の貝殻、
露な心臓の慄ふ睡蓮。
ああ、ぬれしとる七月、嶺の高根薄雪草。
4
幼童の歌のなかに
空は色変へ、
萎んではまた開く花のかげ、
頬白の声が晴々しい。
5
啄木鳥は空しく、
森の扉を叩き、
永生の寂しさに
人は白昼の山を昇る。
6
細い谷合の
剣のやうに鋭く澄んだ
かなたの空を飛び過ぎる鷹、
静かに燃え切る無色の焔。
7
粉屋の軒に雨は降り、
平和な咽喉をならしてゐる鳩の巣、
小鳥たちは音もなく
空に散らばる、黄昏れ時。
8
幼童のかぞへ歌のなかに
世界は崩れ、移る、美しい貝殻、
この永遠の子守唄、
木々の空洞の玉虫、こがね、甲虫。
9
森の空気は練絹の如く皺もなく
空を貫く真白の噴水、
池の表に浮く緋鯉、
ここでは時間がとまつて居る。
10
キリキリと駒鳥は日時計を巻き
昼と夜の時刻を分けて、
窓硝子を鳴らす蝿の翅、
鶏達は疲れを知らない。
11
分をわけ、秒をかぞへ、
光を変へる蜻蛉の目玉、
虚空をうつすむなしい貝殻、
月が出た、教会堂の屋根の上。
12
十二月の月をかぞへて
幼童は歌ひつつ編む花輪、花束、
静かに額づいてゐる蜜蜂の 呟は
泡立つ蜜に酔へ、酔へ、酔へ・・・・・・・・
竹内勝太郎
1935