一くわ
どっしんとおろして ひっくりかえした土の中から
もぞもぞと いろんな虫けらがでてくる
土の中にかくれていて
あんきにくらしていた虫けらが
おれの一くわで たちまち大さわぎだ
おまえは くそ虫といわれ
おまえは みみずといわれ
おまえは へっこき虫といわれ
おまえは げじげじといわれ
おまえは ありごといわれ
おまえらは 虫けらといわれ
おれは 人間といわれ
おれは 百姓といわれ
おれは くわをもって 土をたがやさねばならん
おれは おまえたちのうちをこわさねばならん
おれは おまえたちの 大将でもないし 敵でもないが
おれは おまえたちを けちらかしたり ころしたりする
おれは こまった
おれは くわをたてて考える
だが虫けらよ
やっぱりおれは土をたがやさんばならんでや
おまえらを けちらかしていかんばならんでや
なあ
虫けらや 虫けらや
大関松三郎
「山芋」所収
1944
他の生物の生活を侵害せず、他の生物の命を奪うことなく生きられたら、どんなに幸せな事か。生き物の生命は偉大で限りなく愛しい、なのに悲しみが付きまとう。生きるということの無垢ではいられない運命に残酷さが付きまとう。