そこにお前は立ちつくす
森の上の美しい日没
その異様なしずかさのなかで
お前は思う
もはやもとにかえることはできない
道化たしぐさも
愛想笑いも
もはや何ひとつ役に立たない
虚勢をはることも
たれにそうせよと言われたことでもなかった
笑うべき善意と
卑しい空威張り
あげくの果は
理由もなくひとを傷つけるのだ
お前を信じ お前の腕によりかかるすべてのものを
思うことのすべては言い訳めいて
いたずらに屈辱の念を深める
屈辱 屈辱のみ
自転車にも轢かれず
水たまりにも落ちず
ふたつの手をながながと垂れ
そこにお前は立ちつくす
ああ 生れてはじめて
日没を見るひとのように
黒田三郎
「小さなユリと」所収
1960