わたしは月をながめ
おまえのことを考える
わたしはおまえに逢いたい
月は中ぞらにあんなに光つている
そしてわたしは思い出す
わたしの足の下を掘つてゆくならばおまえの国へ出るということを
わたしの足の下におまえはさかしまになつて歩いている
おまえとわたしとはおなじ月を眺めることができない
雲のない満月も赤い月蝕もひとつも見られない
月の光もおまえとわたしをいつしよに照らすことはようしない
対蹠のくに
なんという遠方だろう
わたしは月をながめ
わたしはおまえに逢いたいのである
中野重治
「中野重治詩集」所収
1931