土の肉体を たちきる
どこから呼ぶのだ
アブラクサス ガラ ガラ ツェ ツェ
ぬぎ捨てた古靴
そのぬぎ捨てた おまえの古靴の踵をけむりの如くひかりが貫ぬいて
カラス麦は
戦争や記憶や
愛を
太陽にむかって
カラス麦は
見つめられるごと
額をかがやかせ
茎はのび
じゅぴてるの羽根と思想よりも あおく染め
カラス麦は
アブラクサス ガラ ガラ ツェ ツェ と
つまさき立って茎はのび
千万の
きょうじんな意志の針金をゆすって
古靴のさき
未来の夜明けの
穴があいて
青い いくせいそうの頭上のみのりを
たわわに弾く
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あなたとむかいあっていると
まぶしくって
声はききとることができないが
言葉の揺れる速度にあわせて
口のまわりが
鳥の翔びたつごとくひかるので
それと わかる
日高てる
「カラス麦」所収
1965
日高てるさんの「カラス麦」は許諾をいただいた上で掲載しております。
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