月の出

今東の空をみたら山火事かと驚いた。一めんにあかく彩られていた。何事かと思ってみていると月の出るところ。
電力時計がカチリと長針をすすめるように、ほとばしるような力をこめて月がのし上る。又出た。又出た。もう半分くらい出た。
その色は赤銅色のかがやきだ。
全部あらわれた時煤色のヴェールがその表面をすーっとかすめた。
すっかり出た時かがやきは失われ、ただ赤爛色の円盤になった。

永瀬清子
「薔薇詩集」所収
1958

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