立ち往生

眠れないのである
土の上に胡坐をかいてゐるのである
地球の表面で尖つてゐるものはひとり僕なのである
いくらなんでも人はかうしてひとりつきりでゐると
自分の股影に
ほんのりと明るむ喬木のやうなものをかんじるのである
そこにほのぼのと生き力が燃え立つてくるのである
生き力が燃え立つので
力のやり場がせつになつかしくなるのである
女よ、そんなにまじめな顔をするなと言ひたくなるのである
闇のなかにかぶりを晒らしてゐると
健康が重たくなつて
次第に地球を傾けてゐるのをかんじるのである

山之口貘
山之口獏詩文集」所収
1963

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