路上偶成

あと ひと息のところで
カタとおち
遮断機が 行手に大手をひろげた

まのあたり 月を載せ
――清水に流した素麺、いな
あの白ぬきの縞がらを いくすぢの線路が織る

とつぜん
ざあつとひかりを わたしに浴びせかけ
光り虫が いくつか
断続しながら わがまへを過ぎた

佇んで しばし
わたしは半生の行路にして
いくたび わたしを阻んだ
あの眼にみえぬ遮断機を かたどる

眼前咫尺まで おびきよせて遮り
故意に拒むやうな 依怙地な仕打をなしたもの

通りすぎるまでの ぎりぎりの
結着を待つて 暖かに 降ろされたもの

一歩は踏みこませ またひき戻させたもの
半ば歩ませ 半ばは駈歩に 急きたてたもの
はてしなく 待ち草臥れさせたもの
まち草臥れさせて 傍の
跨線橋に追ひやつてから すぐと展いたもの

いま一歩にして
みつけた伴侶を 見失はせたもの
それに
それから……

高祖保
「独楽」所収
1945

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