遠い国の船つきでおれは五年も暮らしてきた
おれはいつでも独りぼつちでさびしい窓にぼんやりもたれて暮してゐたのだ
ああそのながい間ぢゆうおれは何を見てゐただらう
鴉 鴉 鴉 あのいんきな鬱陶しい仲間たち
今日も思ひ出すのは奴らのことばかりだ
あのがつがつとした奴らが明け暮れ辺鄙な空にまかれて
漁船のうかんだ海の上まであいつらが空をひつかきまはした
朝焼けにも夕焼けにも
せつかく絵具をぬりたてた
そこいらぢゆうの風景をめちやめちやにして
あいつらは火事場泥棒のやうにさわぎまはつた
何といふがさつな浅ましい奴らだらう
朝つぱらのしののめから
奴らはせつせと遠くの方まで出かけていつた
さうしてそこらの砂浜で何だかごたごた腐つたさかなの頭なんかを
頬ばつたりひろひこんだり
あくびをしたり喧嘩をしたりさ
それから小首をかしげたり
さうして都会の小僧どもが日暮れの自転車をふむやうに
奴らはせかせか羽ばたきをして
後から後から後から 海を渡つてもどつてきたものだ
けれどもどうだらう
これから後五百万年も きつと奴らは滅びることはないだらう
そんな苦しい考へから
おれはいつもひとりで結局ふさぎこんでしまつたものだ
おまけに今日は東京銀座の四つ辻で
外でもないおれはまたあいつらのことを思ひだしてゐるのだ
何といふわびしい追想だらう
笑つてやれ!
ここではお洒落なハンド・バッグが何だかあいつらのまねをして
この日の暮れのうすぼんやりした海の上をせかせか羽ばたくからだらう

三好達治
駱駝の瘤にまたがつて」所収
1952

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