大型時刻表と
小型時刻表と
二つの列車時刻はどう違いますか。そういう問いあわせが
旅行斡旋所へくる。
笑わせはするが
それもそうだ、と思う。
私のこれまでの旅の度数は
たぶん、
百回、二百回を数える。
その時どきに
旅疲れにひっくるんで
使い棄てに放り出した時刻表は何冊を数えるだろう。
太く短く。
細く長く。
という時間哲学がある。これに照らして
どうやら私は
後者のタイプか。
そうだとすれば小型の方が時刻操作に役立つだろう。
ところがこのごろ
ひどく皺よった私の時間は
胸のあたりでつかえたり、しゃっくりしたり、
震えたりする。
そうだとすれば大型で
いくらかでも幅ひろくする方がいい。
手こずるのは、
太くもほそくもない
長くもみじかくもない
精神的漂白という奴。
こいつは
大型、小型のどちらに組みこまれるか。
近頃流行は
ディスカバー・ジャパンという
旅のそそのかし。
さては、
金権暴力横行地方の
暗黒裏面ひっぺがしの旅。その発掘であるか。
(いや、何に。
ただ遠くへ行きたい、だとさ)
こんどの旅に
大型、小型の
どちらの時刻表を買うか。
Kiosk なんぞと文字マークをくっつけてる
駅ホームの売店で訊いて
時間をムダにしない方の一冊を選ぶとしよう。
伊藤信吉
「望郷蛮歌 風や天」所収
1979