言葉が死んでいた。
ひっそりと死んでいた。
気づいたときはもう死んでいた。
言葉が死んでいた。
死の際を誰も知らなかった、
いつでも言葉とは一緒だったが。
言葉が死んでいた。
想ったことすらなかったのだ、
いったい言葉が死ぬなんて。
言葉が死んでいた。
偶然ひとりでに死んだのか、
そうじゃないと誰もが知っていた。
言葉が死んでいた。
死体は事実しか語らない。
言葉は殺されていた。
言葉が死んでいた。
ふいに誰もが顔をそむけた。
身の危うさを知ったのだ。
言葉が死んでいた。
誰にもアリバイはなかった。
いつでも言葉とは一緒だったのだ。
言葉が死んでいた。
誰が言葉を殺したか?
「私だ」と名乗る誰もいなかった。
長田弘
「言葉殺人事件」所収
1977