二人の幻術使いが
向き合って、たがいに印を結んだ。
一人の幻術者の咒文は
相手の天空を地面に引きずり下ろした。
もう一人の幻術者の咒文は
相手の立つ地面をぐんぐん縮めた。
天と地の境いが無くなる。
生きて立つ足場が無くなる。
薄っぺらい一枚の紙型に化した一方の幻術者。
足場が無くなって奈落の底へ落ちていったもう一方の幻術者。
昔の豆本で読んだ
いのちの瀬戸際の作り話である。
幼年の記憶が
老年の私におそいかかる。
私の生活が薄っぺらい紙型になる。
私の生が地上の面積から蹴落とされる。
伊藤信吉
「上州」所収
1976