ある日
白昼の昼のプラットフォームに電車を待っていて
とつぜん自分のからだがばらばらに分解するような激動を感じたという
それは一瞬のうちに消えたが
わけが分からず
たいそう恐ろしかったという
そのあとすぐに
かつて覚えたことのない深い疲れが全身に広がっていった
健康に自信を持っていた男だが
ああ、おれは近いうちに死ぬんだな、と思ったそうだ
男はまもなく死病にとりつかれ
あの世に行った
臨終は
すごい苦しみようだったという
同じことが精神にも起こらないだろうか
ある日
べつの男が一人の部屋で青蜜柑をむきながら夜をむかえようとする
とつぜん男の精神がばらばらに砕かれる
落日が
とてつもなく大きく見えてくる
そのあとすぐに暗くなって
男は大きなため息をつく
「地獄へだってなかなか行けやしない」
北村太郎
「ピアノ線の夢」所収
1980
北村太郎は好きな詩人ですが、この詩は記憶になかった。読み直してみようと思いました。すごみのある詩ですね。紹介、ありがとう。