日本の家は屋根が低い
貧しい家ほど余計に低い、
その屋根の低さが
私の背中にのしかかる。
この屋根の重さは何か
十歩はなれて見入れば
家の上にあるもの
天空の青さではなく
血の色の濃さである。
私をとらえて行く手をはばむもの
私の力のその一軒の狭さにとぢこめて
費消させるもの、
病父は屋根の上に住む
義母は屋根の上に住む
きょうだいもまた屋根の上に住む。
風吹けばぺこりと鳴る
あのトタンの
吹けば飛ぶばかりの
せいぜい十坪程の屋根の上に、
みれば
大根ものっている
米ものっている
そして寝床のあたたかさ。
負えという
この屋根の重みに
女、私の春が暮れる
遠く遠く日が沈む。
石垣りん
「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」所収
1959