港の人(抄)

なにか滴るような音がする
水だろうか
暗闇にベッドから下りて調べにいく気はしない

水でなければ
なんでありうるか
夢のなかの答えはいくつもある

今日は平穏な一日だった
窓のそとが
うす暗くなるまで雨がふりつづき
風がないのに
夜なかにかけてゆっくりやんでいった

鞍をつかんで
地面を蹴るような思いをしたのは
いつのことだったろう

むろん空は青かったし
水は
そのためにあったようだった
愛する人の体じゅうからあんなに汗がしたたるなんて
思いもしなかった
コップを持っていく自分の指が
とってもあお白くみえた

あれは

そうにきまっている
そうでなければ
なんでありえないか
夢のなかの答えがいくつかあったって
ほかのいろであるわけがない
あしたも
おなじいろの天気であればいい

北村太郎
「港の人」所収
1989

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