手をさし出されて
握りかえす
しまったかな?と思う いつも
相手の顔に困惑のいろ ちらと走って
どうも強すぎるらしいのである
手をさし出されたら
女は楚々と手を与え
ただ委ねるだけが作法なのかもしれない
ああ しかし そんなことがなんじゃらべえ
わたしは わたしの流儀でやります
すなわち
親愛の情ゆうぜんと溢れるときは
握力計でも握るように
ぐ ぐ ぐっと 力を籠める
痛かったって知らないのだ
ブルガリヤの詩人は大きな手でこちらの方が痛かった
老舎の手はやわらかで私の手の中で痛そうだった
茨木のり子
「茨木のり子詩集」所収
1969