しん 父はは、近親者がそう呼んだ。
しんちゃん 村びと、幼な友だちは村訛りで。
しんこぼたもち 悪態ついた悪童たち。
しんきち 二十歳 徴兵検査官は呼び捨てで。
いとう 二十七歳 特高警察は留置所で。
しんきち 三十六歳 戦時徴用官は権力づらで。
おとうさん 家族たちは暮しの座で。
しんきちさん わかい娘がそう呼んだ。
おじいちゃん、おじいちゃん 孫むすめは遊び相手を呼ぶ声で。
そして、
おれは
おれで、
そんなわけで
伊藤君。
このあと幾つ、私の呼び名は残ってる。
伊藤信吉
「上州」所収
1976