あなたに

わたしたちは ついぞ
抱き合うことはなかった
お互いが お互いの迷路であったから
わたしは あなたのそばで途方に暮れ
あなたもまた わたしの横で迷子になっていた
行くことも
帰ることもできなくて
ただ しくしくとあなたは泣き出し
そしてわたしは
ますます すねてゆくのだった

あれから十年
夢や 時や 憤り
過ぎ去るものを じっとこらえて
わたしはまだ 同じ場所にいる
あの時の迷子のままで

高野喜久雄
「存在」所収
1961

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