エスカレーター


エスカレーターがめずらしかったころ
ぞうりをぬいで
白い足袋すがたになり
きぜんとして
エスカレーターのなかへ消えていった
おばさんをみたことがあります

ぞうりはぬぎすててあったように
記憶しています
でも、そんなことはないでしょうね
ぞうりをしっかり手にもって
暗いエスカレーター上の人となり
ななめうえの世界へ
すがたを消したのにちがいありません

エスカレーターがめずらしかったころ
それはたいてい暗いところにありました
とくにフロアーから
フロアーへ
くぐりぬけるときは
まっくらになります
あの恐さをいまでも忘れることができません

エスカレーター教育ということばがあります
知っていますか
エスカレーターには
くだりもあるのですよ


エスカレーターは
やがて終点に来ます
われわれの身をのせているてっぱんが
いちまいいちまい
フロアーにすいこまれてゆきます
ふと
人生の「終点」を思うのです

いつまでもあのてっぱんにのっていると
どうなりますか
われわれの身は
フロアーのすきまにすいこまれて
うらがわ
知らない世界へ行ってしまうのかも知れません

エスカレーターの夢を
見たことはありませんか
らせん状になっていることもあれば
おどりばで
くるりとむきをかえて
こちらへ向かってくることもあります
「おどりば」って
人生を感じませんか

エスカレーターのてっぱんは
ほんとうのことをいうと
機械のうらがわをくぐって
また「出発点」にでてくるのですね

藤井貞和
ピューリファイ!」所収
1984

One comment on “エスカレーター

  1. 「エスカレーター」は藤井さんの許諾をいただいた上で掲載しております。
    無断転載はご遠慮ください。

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