俺は殺されることが
嫌ひだから
人殺しに反対する、
従って戦争に反対する、
自分の殺されることの
好きな人間、
自分の愛するものゝ
殺されることの好きな人間、
かゝる人間のみ戦争を
讃美することが出来る。
その他の人間は
戦争に反対する。
他人は殺されてもいゝと云ふ人間は
自分は殺されてもいゝと云ふ人間だ。
人間が人間を殺していゝと云ふことは
決してあり得ない。
だから自分は戦争に反対する。
戦争はよくないものだ。
このことを本当に知らないものよ、
お前は戦争で
殺されることを
甘受出来るか。
想像力のよわいものよ。
戦争はよしなくならないものにせよ、
俺は戦争に反対する。
戦争をよきものと断じて思ふことは出来ない。
武者小路実篤
「種蒔く人」初出
1921