古い詩集

僕は羽の汚れたペンで
少年のやうな詩を書いた
詩はいぢらしい詩集に編まれて
世の風の中にちらばつていつた
僕からも失くなつていつた

幾年――
僕は詩集をさがして歩いた
昨日 さびれた或る古本屋で
なつかしい彼に逅った
彼は十五銭
棚の埃にのってゐた

一円で僕は買はうと思つた
手にとってぺーヂをめくると
昔住んでゐた町角の夕陽が見えた
そこから黄ばんだ犬が一匹吠えて出て
僕の肩に跳びかかつた

丸山薫
「物象詩集」
1941

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