ふと覚めた枕もとに
秋が来ていた。
遠くから来た、という
去年からか、ときく
もつと前だ、と答える。
おととしか、ときく
いやもっと遠い、という。
では去年私のところにきた秋は何なのか
ときく。
あの秋は別の秋だ、
去年の秋はもうずっと先の方へ行つている
という。
先の方というと未来か、ときく、
いや違う、
未来とはこれからくるものを指すのだろう?
ときかれる。
返事にこまる。
では過去の方へ行ったのか、ときく。
過去へは戻れない、
そのことはお前と同じだ、という。
秋
がきていた。
遠くからきた、という。
遠くへ行こう、という。
石垣りん
「表札など」所収
1968