長い髪によごれたリボンを結んであそんだ彼の女は
夜になると部屋にくらく座つたまゝ動かない
疲れた心臓の尖端をヂヨキヂヨキ鋏で切りはぢめる
─────ウドンを買つて来て食べやう
─────また心をはさみ切つてはいけない
昨日はアルコールにふくれた蛙が死んだよ
今日は偽瞞にみちた小さな脳髄の蛙が死んだよ
どつちもざまの悪い骸骨となつた
何もない胃をがりがり食ひ破る鼠も死んだ
─────絶淵には
白いペンギン鳥が糞だらけになつて死んでゐる
飢餓は歯をくろくよごしてゐる
私は葱を嚙んで晩飯にしても寝られる
煙突のやうに無愛想につゝ立つたまゝでも平気だ
私はすでに私のためには苦しまないが
ヂヨキ ヂヨキ ヂヨキ…………………………
そんな顔をしないで
疲労の頂点できりきりまはつてゐる心臓をねむらせろ
─────ウドンを買つて来て食べやう
─────夏ミカンを買つて来て食べやう
萩原恭次郎
「死刑宣告」所収
1925