呪詛

たえずうたがひ、たえず嘆き、
たえず悶えるこの心を、
むしりとりたいのだ、
飢ゑた鳥の胃袋と、
とりかへてしまひたいのだ。

父は大酒に酔ひつぶれてゐた、
うづ高い青表紙の書庫にこもつて、
母はわびしさに泣いてゐた、
神よ、あの呪はれた受胎の日を、
ならうことならどうにかして下され。

燃えただれたその触手をのべて、
永遠に暗い、永遠に哀しい、
しかも永遠にみだらな、
ここのところを、
焼きとつてくれぬか。

みづからを墜し、
もの皆を墜落に導き、
しかもなほいのりを忘れぬ──。
これは天国への、
これは地獄への隧道だ。

なまぬるい日あたりに、
三白草よ、おごれ、
饐えるまで、腐るまで、
目もくらむするどい悪臭に、
聖なる園をけがしたいのだ。

ゐたたまらなさに歌口をしめして、
今吹き鳴らす野笛のしらべに、

ああ、転調!
すべての転調!

怪しい香をくろ髪に焚きこめて、
この遠慮がちな食慾に、
あらゆる饗宴をゆるさうか、
私の魂よ、
無智になれ、盲目になれ。
地もやぶれよと踊り狂ふ二神、
ああ、消えてはうつり、
うつつては消え、
息する間もなくのべられる真紅の場面、
快楽よ、
かくて私はお前の肉になりたいのだ。

深尾須磨子
「呪詛」所収
1925

One comment on “呪詛

  1. 宇宙 が ある

    たったひとつの理由

    この宇宙が自然消滅してしまうと

    なにも残らない

    (ヒトはソレ を 永遠=終焉 ト 呼ブ)

    その ため に (だけ) ある

    🔸ナイ は 創ラれない ってこと

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