おもちゃ屋の前を通ると
毬を買ってね
本屋の前を通ると
ごほん買ってね と子供が言う
あとで買ってあげようね
きょうはお銭をもって来なかったから
私の答もきまっている
子供はうなずいてせがみはしない
のぞいて通るだけである
いつも買って貰えないのを知っているから
ゆうがた
ゆうげの仕度のできるまで
晴れた日は子供の手をひき
近くの踏切へ汽車を見にゆく
その往きかえり 通りすがりの店をのぞいて
私を見あげて 子供が言う
毬を買ってね
ごほん買ってね
大木実
「路地の井戸」所収
1948