男は知っている
しゃっきりのびた女の
二本の脚の間で
一つの花が
はる
なつ
あき
ふゆ
それぞれの咲きようをするのを
男は透視者のように
それをズバリと云う
女の脳天まで赤らむような
つよい声で
男はねがっている
好きな女が早く死んでくれろ と
女が自分のものだと
なっとくしたいために
空の美しい冬の日に
うしろからやってきて
こう云う
早く死ねよ
棺をかついでやるからな
男は急いでいる
青いあんずは赤くしよう
バラの蕾はおしひらこう
自分の手がふれると
女が熟しておちてくる と
神エホバのように信じて
男の掌は
いつも脂でしめっている
滝口雅子
「鋼鉄の足」所収
1960