生れて何も知らぬ吾子の頬に
母よ、絶望の涙をおとすな。
その頬は赤く小さく、今はただ一つのはたんきやうにすぎなくとも
いつ人類のための戦ひに燃えないといふことがあらう。
生れて何もしらぬ吾子の頬に
母よ、悲しみの涙をおとすな。
ねむりの中に静かなるまつげのかげを落して
今はただ白絹のやうにやはらかくとも
いつ正義への決然にゆがまないといふことがあらう。
ただ自らの弱さと、いくじなさのために
生れて何も知らぬわが子の頬に
母よ、絶望の涙をおとすな。
竹内てるよ
「花とまごころ」所収
1933