頓死

夕暮の海岸
僕だけしかゐない
波打際の流木の上にテープレコーダーを置いて
僕は一服
A面には ある禅寺の勤行
太鼓と鐘と青年僧の読経
いま その裏側に 刻々 波音が記録されてゐることであらう
崩れる波
息をのみこむやうにしてふくれあがり
三段にも 四段にも 音たてて
レースのやうにひろがり 散らばってゐる
新月も見えはじめたが
夜陰ともなれば如何なることになるのか
「大統領の陰謀」によるとニクソンは
録音テープによつて自ら墓穴を掘つたといふ
僕には失ふべき何物もない
ひき返すうすい海水は斜めに流れ
上げ潮になつてゐるらしい
再生するのがたのしみだ
しかし その時
天地の秘事盗聴は不埒!!
流木の下の砂が削り去られてゐたのだ
流木が僅かに動き くるりとゆらぎ
流木の上のものが落ちた
塩水が入りこんで テープは止まり
ボタンも 蓋も びくともしない
駄目になつたのは 僕か
ああ テープレコーダー君

小山正孝
「山居乱信」所収
1986

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください