わたしの憂鬱は羽ばたきながら
ひらひらと部屋中を飛んでゐるのです。
ああなんといふ幻覺だらう
とりとめもない怠惰な日和が さびしい涙をながしてゐる。
もう追憶の船は港をさり
やさしい戀人の捲毛もさらさらに乾いてしまつた
草場に昆蟲のひげはふるへて
季節は亡靈のやうにほの白くすぎてゆくのです。
ああ私はなにも見ない。
せめては片戀の娘たちよ
おぼろにかすむ墓場の空から 夕風のやさしい歌をうたつておくれ。
萩原朔太郎
「定本青猫」所収
1934
わたしの憂鬱は羽ばたきながら
ひらひらと部屋中を飛んでゐるのです。
ああなんといふ幻覺だらう
とりとめもない怠惰な日和が さびしい涙をながしてゐる。
もう追憶の船は港をさり
やさしい戀人の捲毛もさらさらに乾いてしまつた
草場に昆蟲のひげはふるへて
季節は亡靈のやうにほの白くすぎてゆくのです。
ああ私はなにも見ない。
せめては片戀の娘たちよ
おぼろにかすむ墓場の空から 夕風のやさしい歌をうたつておくれ。
萩原朔太郎
「定本青猫」所収
1934